冷や汗が出る。
手足の震えが止まらない。
ガチガチと震えて歯が鳴る。



これが、鬼。

鬼殺隊のみんなが、命を懸けて戦っている、鬼。




恐い。
でも、このままだと男の子が犠牲になってしまう。
それだけは避けなければ。

ぎゅっと拳を握りしめて、ありったけの声を上げた。








「や、やめなさい!!」

私の声に、男の子と鬼がこちらの方を向く。



私と鬼の間には少し距離がある。普通だったら男の子が先に襲われてしまう。
どうすればいい?


必死に脳をフル回転させて考えた。


ふと、懐に違和感を感じた。

そして1つ思い付く。




できる?私に。
これまで1度も戦ったことなんかない私が。
もっと他に案があるんじゃないの?
でもこれ以外、今は思い付かない。




やらなければ、私が。













「こっちを見なさい!」

再び大声を出して、視線をこちらに引き付けた。


そして、懐から、しのぶさんに持たされていた短刀を取り出し、自分の左腕にぴたりと当てた。

ごくりと息を飲んだ。そして


「っ!!!」

一気に自分の腕を切りつけた。
地面に血がボタボタと落ちる。見ただけで吐き気がした。


鬼は人の血に反応すると聞いた。なら、自分の血で気をこちらへ向けてくれるはずだ。


案の定、鬼は向きをこちらに変えた。
それを確認して素早く男の子に逃げるよう促した。

「早く行って!大通りまで出れば妹が待ってる!!」


男の子は恐怖からなのか、首をふるふると振っている。


「行きなさい!!早く!!」

より強く叫ぶと、男の子はようやく泣きながら走った。
あとは、私はヘマをしなければ、時間は稼げるはずだ。







「さあ、来なさい」

呟くと同時に鬼がこちらへ向かってきた。
ありがたいことに、一直線に。

痛む左手を右手に添えて、覚悟を決めて構えた。
鬼が私めがけてその爪を振りかざした。瞬間。



「ぎゃああああああああ!!?」

悲鳴を上げて、のたうち回る。


短刀には藤の花の毒が塗られている。鬼の弱点は首。
首にこの短刀を突き刺せば、殺せはしないが、ある程度のダメージは与えられるのではと踏んだ。

その読みはあながち間違いではなかったようだ。
鬼は苦しみもがいている。




しかし、そのもがいて振り回していた腕が、こちらめがけて飛んできた。




「きゃああっ!」

さすがにそれは避け切れず、壁へと身体を叩きつけられた。


「うっ・・・」



ああ、出血と脳震盪で力が入らない。

逃げないと。このままだと殺されてしまう。
でもダメだ。意識が遠のいていく。
このまま死ぬんだろうか。


どうせ死ぬなら、最後に彼に一目会いたかった。
あの優しい笑顔をもう一度見たかった。



そんなことを思いながら、意識を手放そうとした、その直前だった。















「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」



何かが高速で突き抜けた。




薄れていく意識の中で微かに見えたのは、見慣れたあの金色の髪だった。